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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)610号 判決

上告人 清水祐雅

被上告人 国

右当事者間の東洋拓殖株式会社に対する特殊清算事務執行の取消請求事件について、東京高等裁判所が昭和三六年一月三〇日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人高野亦男、同森吉義旭の上告理由について。

特殊清算人(昭和二三年政令第二五一号による改正前は特殊整理人)は政府によつて指名又は選任されるが、その地位は閉鎖機関(昭和二一年大蔵・外務・司法省令第一号による改正前は指定機関)の機関たるに過ぎないこと、したがつて、特殊清算人が特殊清算(前記政令による改正前は特殊整理)事務の執行として行う閉鎖機関の財産の処分、債務の弁済、清算費用の支出等の行為は、私法上の行為であつて公法上の行為ではないこと、よつて、上告人らが国を相手どり、閉鎖機関たる東洋拓殖株式会社の特殊清算人が特殊清算事務として実施した同会社の財産等の処分行為の取消を求める本件抗告訴訟は、訴訟の対象を欠く不適法なものであるとした原審の判断は、すべて正当であつて、是認することができる。

論旨は、いずれも、叙上に反する独自の見解に立脚して原判決を非難するに過ぎず、論旨引用の諸判決は、本件に適切でない。それ故、論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)

上告代理人高野亦男、同森吉義旭の上告理由

原判決は控訴人等の控訴を棄却し、原判決は第一審判決理由を全部引用した。

原判決は左記の通り、法律解釈、適用を誤つた違法及び審理不尽理由不備、理由齟齬の違法がある。

原判決理由は(三)前記省令又は勅令にもとづいて閉鎖機関に指定された法人等の団体(以下閉鎖機関という)の清算手続については前記法令はこれを直接民法ないし商法の規定によらしめることなく、これら法令自体の定めるところにより政府の指名又は選任する特殊整理人又は特殊清算人をしてこれにあたらしめることゝし(昭和二〇年大蔵省外三省共同省令第二条ないし第四条閉鎖機関第九条第一項第二項)そのために閉鎖機関の清算手続を通常の清算と区別して特殊整理又は特殊清算と呼んでいる。閉鎖機関の特殊清算は前記のとおり、主務大臣又は大蔵大臣によつて指名又は選任せられた特殊整理人又は特殊清算人によつて主務大臣又は大蔵大臣の監督のもとに執行されしかもその執行は専ら前記法令の定めるところであるから、通常の民法商法あるいは破産法にもとづく清算手続とはその外観を著るしく異にし公的色彩を強く帯びているがその実質においては前記の法令の定める特殊整理人又は特殊清算人の職務内容に照らしても解散後の財産の整理を内容とする通常の法人等の清算手続と異なることなく、結局において、閉鎖機関については、連合国の占領政策に即応し、政府の指名又は選任した清算人によつて厳格なる法規制のもとに清算を実施せしめんとするものに外ならない。

すなわち特殊整理人又は特殊清算人は政府によつて指名又は選任されるが、その地位はあくまで閉鎖機関の機関たるに止まる。したがつて、特殊整理人又は特殊清算人が特殊清算(整理)の執行として行う閉鎖機関の財産の処分、債務の弁済、清算費用の支出等の行為はその性質において民法商法あるいは破産法の規定にもとづき清算人あるいは破産管財人が清算手続の執行として行う行為と何ら異るものではなく、それらの行為の本質は私法上の権利主体の機関がする私法上の行為に過ぎず、たとえ特殊整理人あるいは特殊清算人が公的性格を持つているとしても、行政権が優越的な地位において権力を発動してなす行為としての性格を有しないものといわなければならないと判示している。

第一点原判決理由は(1) 「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ発する命令に関する件(昭和二〇年九月一〇日勅令第五四二号)(以下単に勅令第五四二号という)「ポツダム」宣言の受諾に伴う命令に関する件の実施に関する件(昭和二〇年九月二〇日勅令第五四三号)(以下単に勅令第五四三号という)及びこれに基いて公布、実施せられた閉鎖機関に関する省令、命令、勅令、政令等の法性及び法規の解釈を誤つた違法がある。(2)  特殊整理人又は特殊清算人の行う事務の性質につき解釈を誤つた違法及び理由不備の違法がある。

(1)  原判決理由は「連合国の占領政策に即応して」と判示しているけれども、原判決理由は、勅令第五四二号及び勅令第五四三号に基いて発せられた閉鎖機関に関する省令、命令、勅令、政令の法性について次の通り解釈を誤り又理由を附してはならない。

勅令第五四二号は、「政府は「ポツダム」宣言の受諾に伴い連合国最高司令官の為す要求に係る事項を実施する為特に必要ある場合に於ては命令を以て所定の定めを為し及必要なる罰則を設くることを得」と規定し、勅令第五四三号は命令」の外に勅令、国令又は省令を加えている。

而して、勅令第五四二号、勅令第五四三号が公布実施せられたのは、日本国政府が降伏文書(一九四五年九月二日)を受諾してからである。

日本国政府は次の通り降伏条項を受諾した。

「下名ハ茲ニ「ポツダム」宣言ノ条項ヲ誠実ニ履行スルコト並ニ右宣言ヲ実施スル為連合国最高司令官又ハ其ノ他特定ノ連合国代表者カ要求スルコトアルヘキ一切ノ命令ヲ発シ且斯ル一切ノ措置ヲ執ルコトヲ天皇、日本国政府及ヒ其ノ後継者ノ為ニ約ス」

よつて、勅令第五四二号、勅令第五四三号に基いて、夥多の省令、国令、勅令、公布が実施せられた。閉鎖機関に関する主なる省令、勅令、政令を掲ぐれば

(1)  外地銀行、外国銀行及び戦時特別機関の閉鎖に関する件(昭和二〇年一〇月二六日大蔵、内務、外務、司法省令第一号)(同上改正昭和二一年一一月二十一日大蔵、外務、司法省令第四号同上廃止昭和二二年三月一〇日勅令第四号)

(2)  外地銀行、外国銀行及び特別戦時機関の破産及び負債の整理に関する件(昭和二〇年一一月二四日大蔵、外務、内務、司法省令第二号、廃止昭和二二年三月一〇日勅令第七号)

(3)  閉鎖機関保管人委員会等に関する件(昭和二一年二月六日改正昭和二一年二月一三日)

(4)  閉鎖機関令(昭和二二年三月一〇日勅令第七四号、改正昭和二三年政令第二五一号、昭和二四年法律第一四五号)

(5)  閉鎖機関令の一部改正する政令(昭和二三年八月二一日政令第二五一号)

(6)  閉鎖機関整理委員会令(昭和二二年三月一〇日勅令第七五号、改正昭和二二年一二月二七日政令第二八五号、昭和二三年八月二一日政令第二五二号)

(7)  閉鎖機関整理委員会令施行規則(昭和二二年三月一〇日大蔵司法省令第二号、改正昭和二三年八月二一日大蔵司法省令第一号大蔵法務庁令第一号、昭和二四年五月三〇日大蔵法務庁第二号)

而して、降伏条項は超憲法的法性を有し、これを内容とし、この内容を実施する省令、国令、命令、勅令、政令等即ち、勅令第五四二号、勅令第五四三号に基く省令、国令、命令、勅令、政令等は凡て超憲法的法性を有している。

これらの省令、国令、命令、勅令、政令等は日本国政府が降伏条項を誠実に履行する措置として公布、実施せられたものであるから、行政法規であり、超憲法的行政法規である。

従つて、前記(1) 乃至(7) の省令、勅令、政令は凡て超憲法的行政法規である。

しからば、特殊整理人又は特殊清算人は前記(1) (2) の超憲法的行政法規によりて主務大臣又は大蔵大臣によつて指名又は選任せられたのであるから、その指名、選任行為は行政行為であり、特殊整理人又は特殊清算人は右法規を解釈、適用して清算事務を執行するのであるから、その清算行為もまた行政行為である。

しからば、特殊整理人又は特殊清算人の指名、選任及びこれらの清算行為は民法商法ないし破産法によるものではないから私法行為ではない。

しかるに、原判決理由が「通常の民法商法あるいは破産法に基く清算手続とはその外観を著るしく異にし公的色彩を帯びているが民法、商法あるいは破産法の規定にもとづく清算人あるいは破産管財人が清算手続の執行として行う行為と何ら異なるものではない」と判示しているのは右省令、勅令、政令の法性解釈を誤つたものである。

又原判決理由は右行政法規である省令、勅令、政令の適用を認めながら、特殊整理人又は特殊清算人の清算行為をもつて私法行為と解するにつき理由不備である。

(2)  原判決は特殊整理人又は特殊清算人の行う事務の法性について少しも判断してはいない。

特殊整理人又は特殊清算人の行う事務は日本国政府が連合国最高司令官又は其の他の連合国代表者の日本国政府に要求しその要求を充足する為めの事務であつて、この事務は日本国政府の事務である。

閉鎖機関令第一条は「……連合国最高司令官の要求に基き……本邦内における業務を停止し、その財産の清算をなすべきものとして云々」と規定し、特殊整理人又は特殊清算人の行う事務が国家の事務であることを明定している。

従つて、特殊整理人又は特殊清算人の清算事務は、国家から委任された事務即ち委任事務で、この委任事務は行政事務である(昭和三一年合(わ)第一八一号同第二二〇号同年刑(わ)第一五〇一号、昭和三五年六月二三日判決)

従つて、特殊整理人又は特殊清算人の事務執行は行政行為である。

原判決理由が特殊整理人又は特殊清算入の行う事務の性質と民法商法による清算人あるいは破産法による破産管財人の行う事務の性質を識別することなく、両者の事務は何等異なるものではないと判示したのは、原判決が右委任事務につき判断を逸し、或は特殊整理人又は特殊清算人の行う委任事務の法律解釈を誤つたものであり、且又理由不備である。

第二点原判決理由は、特殊整理人又は特殊清算人(特殊整理委員会)の法性につき解釈を誤まれる違法がある。

原判決理由は「すなわち特殊整理人又は特殊清算人は政府によつて指名又は選任されるがその地位はあくまで、閉鎖機関の機関たるに止まる」と判示している。

特殊整理委員会(特殊清算人)(閉鎖機関令第九条)は法人であり(昭和二二年勅令第二条)公の機関である。(昭和二三年政令第二号)(閉鎖機関整理委員会の一部改正する政令)(昭和二一年大蔵、外務、司法第二号閉鎖機関保管人委員会等に関する件には保管人委員会の法性について、何等の規定がない)

整理委員会の職員は公務に従事する職員とみなされ(昭和二二年三月一〇日勅令第一〇条)聴問会に関し必要なる経費は毎会計年度予算の定めるところによつて、国庫から支弁し(昭和二三年八月二一日政令第二五二号閉鎖機関整理委員会の一部を改正する政令第一六条)閉鎖機関整理委員会の予算及び決算は公団等の予算及び決算の暫定措置に関する法律によつて処置され、特殊清算人の費用は国家が賄つている。

右により、閉鎖機関整理委員会(閉鎖機関保管人委員会も同じ)(特殊清算人)の法性は一種の行政委員会である。(昭和三〇年合(わ)第一八一号同第二二〇号同年刑(わ)第一、五〇一号昭和三五年六月二三日判決判例タイムス第一〇七号、六七頁)

右原判決理由によると、特殊整理人又は特殊清算人は閉鎖機関の機関であるとしている。しかしながら、

(1)  閉鎖機関東洋拓殖株式会社は営利法人で、私法人であり、特殊整理委員会(特殊清算人)は公法人である。従つて、法人格を異にする公法人たる特殊整理委員会(特殊清算人)は特別規定がない限り、私法人たる閉鎖機関東洋拓殖株式会社の機関となることはできない。右特別規定はない。

(2)  法人の機関たり得るのは、法人に意思決定機関があることを要する。閉鎖機関は意思決定機関の機能を奪われている。(閉鎖機関第一九条の五)

しからば意思のないところにその機関はあり得ない。

(3)  特殊整理人又は特殊清算人は主務大臣又は大蔵大臣に対してのみ責任を有してはいるが(閉鎖機関令第一九条の三(1) (5) )閉鎖機関に対しては何等の責任もない。

(4)  連合国最高司令官の要求によつて閉鎖機関の機能は全く剥奪され、閉鎖機関は特殊清算の目的の範囲内においてのみ存在している。

従つて、閉鎖機関は裁判上、裁判外は問わず、活動することができない。特殊整理委員会(特殊清算人)が閉鎖機関の機関であるとすれば、閉鎖機関の特殊清算は勿論裁判外、裁判上閉鎖機関自体が行為をすることゝなり、連合国最高司令官の要求に反することゝなる。

よつて、特殊整理委員会(特殊清算人)は閉鎖機関の機関ではなく、独立公法人である。

特殊整理委員会(特殊清算人)は閉鎖機関の財産整理の目的の為めにのみ存在しているのである。

原判決理由が、特殊整理委員会(特殊清算人)が一種の行政委員会たる特殊の法性と特殊の目的とを有していることを看過して特殊整理委員会(特殊清算人)を民法、商法における清算人、破産法における破産管財人と等しく私法人の機関と判示したのは、法律解釈を誤つたものである。

夫れ故特殊整理委員会(特殊清算人)が閉鎖機関を裁判外において、代表し、裁判上原、被告となるのは、閉鎖機関の機関としてゞはなく、処分庁として、その権限及び責任においてである。

第三点原判決理由は特殊整理人又は特殊清算人の閉鎖機関所有財産の売却行為の法性について、判断を逸し又は法律解釈を誤つた違法がある。原判決理由は漫然と「したがつて特殊整理人又は特殊清算人が特殊清算(整理)の執行として行う閉鎖機関の財産の処分、債務の弁済、清算費用の支出等の行為はその性質において、民法商法あるいは破産法の規定にもとずき清算人あるいは破産管財人が清算手続の執行として行う行為と何ら異なるものではない」と判示して、特殊整理人又は特殊清算人の売却行為について判示をしてはいない。

特殊整理人又は特殊清算人は閉鎖機関所有の財産について、管理権及び処分権を有してはいるが、所有権を有してはいない。右所有権はあくまでも閉鎖機関に属している。

しからば、特殊整理人又は特殊清算人は自己所有の財産を売却するのではなく、地人所有の財産を売却するのである。

特殊整理人又は特殊清算人は主務大臣又は大蔵大臣の監督下に、前記行政法規により、適正、公正に売却するのである。しからばこの売却は行政法上の公売処分である。

この種公売処分は国税徴収法による公売処分と何等異なるところがない。

国税徴収法の公売処分は、徴税目的の為め、他人所有の財産を強制的に公売し、特殊整理人又は特殊清算人の公売処分は、連合国最高司令官の要求を充足する為め、(清算の為め)、他入所有の財産を強制的に公売する。

而して、国税徴収法上の公売処分が行政処分であることには一点の疑もない(大判、昭和一二年一二月二二日新聞四二二五号一一頁)

しからば、国税徴収法上の公売処分と特殊整理人又は特殊清算人の公売処分とが同一であるから、特殊整理人又は特殊清算人の公売処分は行政処分である。

加之、閉鎖機関令第一九条三第二項が大蔵大臣に対して異議申立を認めていることは右公売処分が行政処分であることを認めている。

よつて、原判決理由は、特殊整理人又は特殊清算人の売却行為につき法律解釈を誤り且つ審理不尽理由不備の違法がある。

第四点原判決理由は特殊整理人又は特殊清算人の行政的優越性格につき法律解釈を誤つた違法がある。

原判決理由は「……たとえ特殊整理人あるいは特殊清算人が公的性格を持つているとしても行政権が優越的の性格を有しないものといわねばならない」と判示している。

しかしながら、東洋拓殖株式会社は

(1) 昭和二〇年一〇月二六日大蔵、内務、外務、司法省令第一号(外地銀行及び戦時特別機関の閉鎖に関する第一号)及び(2) 昭和二一年二月六日閉鎖機関保管人委員会等に関する件によつて、昭和二〇年九月三〇日閉鎖機関に指定された。

(右(1) 省令別表一一、右(3) 省令別表七による指定)

従つて、右(3) 省令第四条によつて、閉鎖機関保管人委員長が閉鎖機関東洋拓殖株式会社の業務及び財産を管理し、第五条によりて、右業務及び財産の管理及び処分権は右委員長の専権に属することゝなつた。

又(4)閉鎖機関令おいては、大蔵大臣は閉鎖機関の本部内に在る本店、支店その他の営業所の店舗の戸扉を閉鎖し、これを封印せねばならない(第二条)何人も指定日以後は閉鎖機関の財産上の権利、義務に変更を生ずべき行為をすることができない(第四条)外国法人でない閉鎖機関の理事、取締役監事、監査役、清算人その他の役員及び支配人は指定日において解任される(第五条)指定日において閉鎖機関の本部内にある営業所以外の場所で閉鎖機関の所有に属する財産(帳簿及び営業又は事業に関する書類を含む)又は閉鎖機関の保管に属する財産を所持する者はこれを遅滞なく特殊清算人に引渡さなければならない(第七条)

右の通り、特殊整理人又は特殊清算人は強大なる権限を附与せられており、この権根に基いて閉鎖機関の財産を占有保管して売却その他の清算行為をして清算終了するのである。

特殊整理人又は特殊清算人は財産差押を要せず、自力執行にもとづいて、占有中の閉鎖機関所有の財産を公売処分するのであるから、その地位は民事訴訟法上の強制競売における執行機関(執行裁判所、執行吏)、競売法上の任意競売における競売機関(競売裁判所、執行吏)国税徴収法上の公売処分における税務署長の地位に比して一層優位である。

かゝる優位なる地位において、閉鎖機関の財産を清算するのであるから、特殊整理人又は特殊清算人(特殊整理委員会)は 私法人である閉鎖機関と平等な地位において、閉鎖機関の財産を清算するものではなく、優越的権限のもとで、清算するのである。

しかるに、原判決理由は、右法条が超憲法的行政法規であり、特殊整理人又は特殊清算人(特殊整理委員会)が優越的権限を持つて清算するのに、「行政権が優越的な地位において権力の発動としてなす行為としての性格を有しないものといわなければならない」と判示している。

よつて、右原判決理由は(4)閉鎖機関令、其の他の法令の法律解釈を誤つたものである。

第五点原判決理由は行政行為自体とその効果とを混同し、前者につき判断を逸し、したがつて、法律解釈を誤まつた違法がある。

(1)  原判決理由は一方において「(三)前記省令又は勅令にもとづいて閉鎖機関に指定された法人等の団体(以下閉鎖機関という)の清算手続については、前記法令はこれを直接民法ないし商法の規定によらしめることなくこれら法令自体の定めるところにより政府の指名又は選任する特殊整理人又は特殊清算人をしてこれにあたらしめることゝし云々」と判示していながら、他方において、「したがつて、特殊整理人又は特殊清算人が特殊清算(整理)の執行として行う閉鎖機関の財産の処分、債務の弁済、清算費用の支出等の行為はその性質において、民法、商法あるいは破産法の規定にもとずき清算人あるいは破産管財人が清算手続の執行として行う行為と何ら異なるものではなく、それらの行為の本質は私法上の権利主体の機関がなす私法上の行為に過ぎず云々」と判示して、前者理由における特殊整理人又は特殊清算人の行政行為を後者理由において、否認して、特殊整理人又は特殊清算人の清算行為をもつて私法上の行為としている。

従つて、原判決理由は、前記法令の解釈を誤り、又理由齟齬の違法がある。

(2)  しかし、原判決理由が「特殊整理人又は特殊清算人」の行う特殊清算は前記法令によるものではあるが、その効果である「閉鎖機関の処分、債務の弁済、清算費用の支出等の行為はその性質において民法、商法あるいは破産法の規定にもとづき清算人あるいは破産管財人が清算手続の執行として行う行為と何ら異なるものではなくそれらの行為の本質は私法上の権利主体の機関がなす私法上の行為に過ぎない」とするのであれば、原判決理由は行政行為自体とそれによる私法上の効果とを混同している。

例えば、国税徴収法による公売処分自体が行政処分であることには一点の疑もない。

この公売処分の効果として、売買が成立し、滞納者は財産権を移転し、買受人は財産権を取得する。

又民事訴訟法における強制競売が司法処分であることは明である。右強制競売においては、その処分の効果として、債務者と競落人間に売買が成立し、債務者は財産権を移転し、競落人は財産権を取得する。

原判決理由は行政処分(行政行為)があつて、その効果として、私法上の効力が発生する法理を誤解して、私法上の効果のみを捉えて、行政処分を抹殺し、特殊整理人又は特殊清算人の行う清算行為はその本質は私法上の行為に過ぎないと判示している。

原判決理由を認めるとすれば、次の如き結論に達する。

国税徴収法における公売処分の効果である売買、強制競売における競売処分の効果である売買、即ち財産権の得喪、移転のみを捉えるときは、原判決理由の通り、特殊整理人又は特殊清算人の行う「特殊清算における閉鎖機関の財産の処分債務の弁済、清算費用の支出等の行為は、強制競売における執行機関の行為も、国税徴収法上の税務署長の行為も、民法、商法における清算人の行為も、破産法における破産管財人の行為も、凡て私法上の行為である。

しかるときは、結局適用法規はないことゝなる。又閉鎖機関令第一九条の三第二項の異議は如何に解すべきであろうか。

閉鎖機関令が行政法規であるならば、大蔵大臣が右異議を却下したときは、異議申立人は行政事件訴訟特例法第一条によりて特殊整理人又は特殊清算人(特殊整理委員会)を訴迫することができる。

しかるに、原判決理由によれば、私法上の行為であるとするのであるから、右特例法によつては訴迫することはできない。

しかし、閉鎖機関令は明かに行政処分であるから、私法による訴迫はできない。

しかるときは、右特例法にありても、私法によつても訴迫ができなくなる。

かゝる結果になるのは、原判決理由が法律解釈を誤つたからである。

よつて、原判決理由は法律解釈を誤つた違法がある。

以上第一点については民訴法第三九四条第三九五条第六号第二点第三点については同法第三九四条第四点と第五点については同法第三九四条、第三九五条第六号に該当する。

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